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私たちは、自分の人生を自分で選んでいると思っています。
どこで働くか、誰と結婚するか、どこに住むか。仕事を続けるのか、家庭に入るのか。何にお金を使い、どのような人生をつくるのか。
けれども、女性の人生と向き合っていると、「本当にゼロから自分で選んだのだろうか」と感じる場面があります。
社会には、最初から設定されている「デフォルト」があるからです。
デフォルト設定とは、本来はスマートフォンやアプリなどで、利用者が変更しなければそのまま適用される初期設定を意味します。しかし私は、この考え方は人生や社会制度にも存在すると考えています。
「結婚したら女性が姓を変えるもの」「子どもが生まれたら母親が仕事を調整するもの」「介護が必要になったら娘が動くもの」。
明文化されていなくても、いつの間にか「普通」とされている選択肢があります。
女性の自己決定を支えるために必要なのは、選択肢を増やすことだけではありません。そもそも何が「最初から選ばれた状態」になっているのかを見直すことなのです。
「普通」は誰が決めたのか
「普通はこうするでしょう」という言葉には、想像以上に強い力があります。
女性の人生には、進学、就職、結婚、妊娠・出産、育児、介護など、多くのライフイベントがあります。そのたびに社会から提示される「標準的な生き方」があります。
問題は、その標準が必ずしも本人にとって最適ではないことです。
多数派の選択と、自分に合った選択は同じではありません。
私は女性の意思決定を支援するとき、「何を選びますか」だけではなく、「なぜ、それを当然だと思ったのですか」という問いを大切にしています。
自分の選択だと思っていたものが、実は社会から渡された初期設定だったと気づくことがあるからです。
結婚にも初期設定がある
結婚は、デフォルト設定が見えやすい場面の一つです。
姓、住む場所、家事分担、家計管理、親族との付き合い方。どれも本来は二人で話し合って決めることですが、実際には「なんとなくこちら」という方向が最初から存在していることがあります。
婚活支援に関わる中でも感じるのは、結婚相手を選ぶことには熱心でも、「結婚後の生活をどう設計するか」まで具体的に考える機会は意外に少ないということです。
結婚とは、人を選ぶだけではありません。
二人の人生に設定されているデフォルトを一つずつ確認し、「これは私たちにも必要なのか」と話し合う作業でもあるのです。
出産後のキャリアを誰が調整するか
助産師として女性の妊娠・出産に関わってきた私が、特に重要だと感じるのが出産後のキャリアです。
妊娠した瞬間から、女性には仕事、身体、家事、育児、保育など、非常に多くの調整が発生します。
もちろん、妊娠・出産に伴う身体的な負担には男女差があります。しかし、その後の生活上の負担まで女性側に集中することが当然とは限りません。
「どちらが仕事を調整するのか」
「子どもの急な発熱には誰が対応するのか」
「保育園からの連絡先を誰にするのか」
こうした小さな設定の積み重ねが、数年後のキャリア差につながっていきます。
女性活躍を考えるのであれば、大きな制度だけではなく、日常に埋め込まれた初期設定を見る必要があります。
家事は「気づいた人」がする?
家庭の中にもデフォルト設定があります。
例えば、「気づいた人が家事をする」というルール。一見すると公平ですが、そもそも誰が生活上の細かな変化に気づき、予定を管理しているのでしょうか。
食材がなくなる時期を考える。子どもの学校行事を把握する。家族の通院予定を覚える。日用品を補充する。
実際に手を動かす作業だけではなく、「考える」「覚える」「先回りする」という仕事も存在します。
この見えない仕事が特定の人に集中すると、その人の時間と注意力が少しずつ失われていきます。
家事分担とは、作業量だけではなく、「誰が家庭を管理する役割になっているのか」まで見直して初めて成立するものだと私は考えています。
会社にもデフォルトがある
職場にも、多くの初期設定があります。
長時間働ける人。急な出張に対応できる人。転勤できる人。勤務後の会食に参加できる人。
こうした働き方を無意識に「標準的な社員像」として設定してしまうと、育児や介護、治療などを抱える人は、能力とは別の理由で評価されにくくなることがあります。
必要なのは、女性だけを特別扱いする制度ではありません。
「そもそも、なぜこの働き方を標準にしているのか」と企業側が問い直すことです。
制度をつくるだけでなく、組織のデフォルトそのものを変えること。それが、本当の意味で多様な人が働ける環境につながります。
選択肢の「並べ方」が人を動かす
私はマーケティングに携わる中でも、選択肢の提示方法が人の判断に与える影響を強く感じています。
同じ商品やサービスでも、最初に何を見せるか、どれを「おすすめ」にするか、申し込み済みを初期状態にするのかによって、人の行動は変わります。
これは企業だけの話ではありません。
行政の申請、医療における情報提供、福利厚生、金融サービスなどでも、「どの選択肢が最初に提示されるか」は重要です。
だからこそ、サービスを設計する側には責任があります。
利用者が考えなくても進める便利さと、利用者の意思決定を奪うことは違います。
女性向けサービスほど、「女性ならこれを望むはず」と勝手にデフォルトを決めないことが重要なのです。
変更できることを知っているか
デフォルト設定そのものが悪いわけではありません。
すべてを毎回ゼロから決めなければならない社会では、私たちは意思決定だけで疲れてしまいます。初期設定には、判断を簡単にするという大切な役割があります。
重要なのは、「変更できる」と本人が知っていることです。
働き方を変えていい。結婚しない選択もある。夫婦で家計管理の方法を変えていい。親との距離を調整してもいい。キャリアを途中で組み替えてもいい。
最初に選んだものを、一生守る必要はありません。
人生に必要なのは、完璧な初期設定ではなく、「いつでも設定変更できる」という感覚なのではないでしょうか。
人生の初期設定を見直そう
女性の自己決定を支えるというと、「もっと自分らしく」「勇気を持って選ぼう」といった個人へのメッセージになりがちです。
しかし、私はそれだけでは不十分だと考えています。
本人が勇気を出さなければ違う選択ができない社会なら、そもそもの設計を見直す必要があります。
企業なら、働き方や評価制度のデフォルトを変える。行政なら、制度を利用する人を限定的に想定しない。家庭なら、「誰がやるものか」を一度白紙に戻して話し合う。
そして私たち自身も、ときどき人生の設定画面を開いてみる。
「これは本当に私が選んだものだろうか」
「今の私にも、この設定は必要だろうか」
そう問い直すだけでも、人生の見え方は変わります。
自分らしく生きるとは、すべてを自分一人で決めることではありません。
最初から決められていたものを、自分の意思で変更できること。
その「設定変更の自由」を社会の当たり前にすることこそ、これからの女性支援に必要な視点だと、仁蓉まよは考えています。
